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うらまごまご日記まごっとmaggot

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20091011 Sun [長年日記]

秋刀魚の歌

あはれ
秋風よ
情あらば伝へてよ
――男ありて
今日の夕餉に ひとり
さんまを食ひて
思ひにふける と。

さんま、さんま
そが上に青き蜜柑の酸をしたたらせて
さんまを食ふはその男がふる里のならひなり。
そのならひをあやしみなつかしみて女は
いくたびか青き蜜柑をもぎて夕餉にむかひけむ。
あはれ、人に捨てられんとする人妻と
妻にそむかれたる男と食卓にむかへば、
愛うすき父を持ちし女の児は
小さき箸をあやつりなやみつつ
父ならぬ男にさんまの腸をくれむと言ふにあらずや。

あはれ
秋風よ
汝こそは見つらめ
世のつねならぬかの団欒を。
いかに
秋風よ
いとせめて
証せよ かの一ときの団欒ゆめに非ずと。

あはれ
秋風よ
情あらば伝へてよ、
夫を失はざりし妻と
父を失はざりし幼児とに伝へてよ
――男ありて
今日の夕餉に ひとり
さんまを食ひて
涙をながす と。

さんま、さんま、 さんま苦いか塩つぱいか。
そが上に熱き涙をしたたらせて
さんまを食ふはいづこの里のならひぞや。
あはれ
げにそは問はまほしくをかし。

 はい、今晩の夕食はさんまでした。「さんま苦いか塩つぱいか」と言ひつつ、さんまを食らひ、まだ若い頃はこの「苦いか」という意味をしらなかったなぁとしみじみ腹のまわりの苦みを味わう。
 ところでこの「秋刀魚の歌」は谷崎の妻・千代への想いを歌ったという。「さんま苦いか塩つぱいか。」だけしかの無知から、またひとつ、秋刀魚食らふときの思いが増えた。

庄野潤三

その秋刀魚を食べながら、キャサリンが佐藤春夫は住中だというので、そうか、そんなはずないと答えると、じゃぁ、伊藤左千夫。それ伊東静雄のまちがだろう。で、すぐにwikiで調べたら、庄野潤三は伊東静雄に教わっていた。そういや、庄野潤三の5期下のボクの父も伊東静雄に習ったと話していた。当時、「乞食」というあだ名だったとずっと昔に聞いた。それで、wikiで庄野潤三をみると、なんとついこないだの9月21日に老衰で亡くなっている(合掌)
 庄野潤三といっても『プールサイド小景』しか読んだことないし、あんまりおもしろいと思わなかったので、それっきりなのだが、兄の庄野英二の家がずっと万代池の近くにあった(今もまだある)せいで、知らないのだがちょっと親しみを感じていた。まぁ、ただそれだけですが。

小津安二郎『秋刀魚の味』(1962)

 秋刀魚に調子にのって、小津安二郎の『秋刀魚の味』ですね。男優では、笠智衆、佐田啓二、三上真一郎、東野英治郎、中村伸郎、北竜二。女優では岩下志麻、岡田茉莉子、杉村春子、岸田今日子と凄いメンツ。岩下志麻と岡田茉莉子が共演してるって他にあった? いや、今じゃ信じられないくらいのキャストで、それでいて全く無駄がない。完璧というべきか。文句つけるとすると、料亭での飲み食いシーンが多いかってくらい。小津の映画にはどっちかというと珍しいギャグもいっぱいあって面白い。料亭シーンの笠智衆、中村伸郎、北竜二の3人がいいのだなぁ。「あのクスリ」いまでいうバイアグラか、当時もそんなのあったのか。それとか騙し合いとか。それがギャグに留まらないで、きっちり本線に組み込まれてくのがすごい。先月観た『彼岸花』もそうだけど、娘(岩下志麻)の結婚式シーンはすっとばす。が、岩下志麻の嫁入り姿はきっちり映す。この嫁入り姿はまさに花嫁人形ですよ。が、相手の男も一度も現れない。徹底的に無駄を省く。その省略形がもう完璧なのだからどうしようもない。
 それと小津の映画でいつも出てくる、映画の中の静止画。市営住宅だったり、お化け煙突だったり、オフィスの窓だったり、前に『早春』でも書いたけど、小津が写真家だったら、すごいモダニズムの写真家だったろうなと思う。その静止画をつないで、ドラマの情景を表現して行く。これは写真というジャンルから絶対チェックすべきだなと思う。


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