ヤフオクの出品。なんぞ出すものはないかと積み重なった文庫からぱらぱら捲っていると、ふと目に止まった。この最初のページにはどきっとしたことを思い出す。そして今またドキッとする。こんなふうにずばっと書き出せるのは森瑤子だから。
結婚している女が、夫以外の男に逢うためにシャワーを浴びているときのこのめくるめくようなトキメキは、何ものにも換えがたいと、阿里子はいつもながらに思うのだった。 長い人生の中で幸福な瞬間というものがたびたびあるけれど、好きな男と密会する直前のシャワーは、その一つだ。
心がざわつく。